【古舘伊知郎降板】囁かれる報道センター『圧力実例』〜総務相電波停止発言の傍で〜








古舘伊知郎氏が『テレ朝・夜の顔』を去った。


古舘伊知郎キャスター(61)にとってテレビ朝日系「報道ステーション」(月~金曜午後9時54分)の最後の出演となった先月31日放送の平均視聴率が15・2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録したことが1日、分かった。/1月19日の15・1%を上回り、今年最高の視聴率となった。また、瞬間最高視聴率は午後10時58分の19・1%で、古舘キャスターが番組を去る思いを語り始めた場面だった。同キャスターは12年間出演。この日は番組最後に約8分間、思いを語り続けた】(『日刊スポーツ』WEB 4月2日配信)


「報道現場に圧力は あるのか」ーーは同番組『電波ジャック』の元経産省官僚・古賀茂明氏によって衆目に下へ露わになった古くて新しいテーマだ。従来、政党や行政府が圧力とも捉えられる文書をテレビ局へ送りつけたとしても、その処理は報道局編成部。蚊帳の外でありつづけるのがキャスターだった。

だが、〈防衛省広報課長が日本テレビ政治部長宛てに文書を送付した〉とされる、『圧力文書』が ここに。


〈今回の法律(※平和安全法制)は「あくまで『限定的な集団的自衛権』の行使を認めたものであり、他国防衛それ自体を目的とするいわゆる集団的自衛権一般の行使を認めたものではありません」「このような設問は、…誤解を国民に与えるものであり、極めて遺憾であります」「今後慎重かつ適切な報道を強く要望致します」〉

内部文書ではない。自民党政調会長審議役・田中重信氏が産経グループ オピニオンサイト『iRONNA』へ寄せた論評の一コマだ。

以下、一部を転載していこう。


【次は、日本テレビの世論調査です。調査項目が、「同盟国などが攻撃を受けた場合、日本が攻撃されたことと見なして、反撃することができる集団的自衛権の行使など、自衛隊の活動を広げる安全保障関連法が、3月末までに施行されます。あなたは、この法律を支持しますか、支持しませんか?」となっていた。

 そう聞かれると、支持する33%に対して支持しないが53%と多くなる。これについても問題ということで、防衛省広報課長が日本テレビ政治部長宛てに文書を送付した。今回の法律は「あくまで『限定的な集団的自衛権』の行使を認めたものであり、他国防衛それ自体を目的とするいわゆる集団的自衛権一般の行使を認めたものではありません」「このような設問は、…誤解を国民に与えるものであり、極めて遺憾であります」「今後慎重かつ適切な報道を強く要望致します」と】




日本テレビの世論調査項目は〈同盟国などが攻撃を受けた場合、日本が攻撃されたことと見なして、反撃することができる集団的自衛権の行使など、自衛隊の活動を広げる安全保障関連法〉と定義。この項目を田中氏は〈意図的及び無知な誤報〉と考えたようたが、それは さておき、「電波停止発言」を国会委員会答弁において言い放った総務大臣の傍で、この時流に圧力とも捉えられる文書を羅列したのである。要は この人物(自民党政調幹部)、やらかしてしまったのだ。

たしかに、数字を いかようにも変えてしまう「藪の中」が世論調査だ。読売新聞・日本経済新聞朝日新聞毎日新聞の世論調査でときの内閣支持率が「紙面に沿う」数字上の現象も、読者層ではなく、その賛否を問う設問の前置き次第だと思われる。これは各社の「表現の自由」(編成・編集権)である。

田中氏が槍玉に挙げた日本テレビの世論調査項目を いまいちど読もう。
〈同盟国などが攻撃を受けた場合、日本が攻撃されたことと見なして、反撃することができる集団的自衛権の行使など、自衛隊の活動を広げる〉
同盟国とは アメリカである。行政府が示したレトリックによれば、アメリカの護衛艦が他国から攻撃をうけた場合、現行では何ら対処しえない日本だという。だからこその集団的自衛権であったはすだ。田中氏は寄稿した論評で次のようなことを述べている。
国際法上は軍隊として扱われる。それはすなわち捕虜としても扱われるということ。ただし、外国に行ったら軍隊だから外国の軍隊と同じようにPKOの活動を行い武器の使用ができるかというと、これはまた違う。「武力行使と一体化しない」というようにする等、国内法の制約の中で法律を作っていくから非常に厄介な仕組みになっている。そんな法律の仕組みは憲法との関係で日本しかない】
 
つまり、国際法上、国家保有の権利は認められているものの、日本は〈国内法の制約の中で法律を作っていく〉のだという。〈あくまで『限定的な集団的自衛権』の行使を認めたもの〉と主張する圧力文書を送りつけたわけだが、平和安全法制を 田中氏流に解釈すると田中氏の〈国内法の制約の中で法律を作っていく〉という〈非常に厄介な仕組み〉そのものである。〈非常に厄介な仕組み〉であれば集団的自衛権においてもそれを取り払うのが政治家だろう。


とはあれ、抗議に値しない話なのだ。なぜなら集団的自衛権とは、国際法的には、〈同盟国などが攻撃を受けた場合、日本が攻撃されたことと見なして、反撃することができる〉固有の権利だからだ。紛争時、日本だけが後方支援限定ですという国内事情を適用されるとでも 思っているのか。
国内法的にも、従来よりの行政府のレトリックを踏襲しており、ましてや抗議すべき項目ではない。その対象は 別の局の世論調査だろう。「限定」は 放送法に照らし合わせ「偏っている」、と抗議すべきなのだ。しかし、「限定」か「逸脱」かが連日 国会審議を熱した与野党対立があったが、いずれかの一語を添えるか は各社の「表現の自由」(編成・編集権)である。